第6章 彼女を愛した

朝の霧雨が、白い大理石の墓石を濡らしていた。

「浅倉早苗、一九九九-二〇一九、愛する娘」

雨と、黒川尾原の疲労とで、その文字は滲んで見えた。

彼は泥の中に膝をつき、高価なスーツはずぶ濡れになっていた。石に刻まれた彼女の名を、指でなぞる。また一月が過ぎた。この空虚な存在のまま、また一月。

「早苗……また、しくじった」

彼の声はひび割れていた。

「昨日、最後の大口クライアントを失った。経理の奴が言うには、この四半期を乗り切れないかもしれないそうだ」

雨は降り続いていた。

「だが、そんなことはどうでもいい、だろ?お前を殺したのは、俺なんだから。この手で、お前を死に突き落と...

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