第1章
また吹雪の夜勤か。もう慣れたはずなのに、今夜は何かが違う気がした。
多分、絢紀が小林隊長と一緒に救助基地に泊まっているからだろうか。私のオフィスで、あの子がどうしても手放さない、くたくたのテディベアと一緒に丸くなって眠っている。朝になったら卵焼きを作ってあげると約束した――あの子が大好きなやつだ。
ああ、早くこのシフト、終わらないかな。
無線機が雑音と共に息を吹き返し、私の思考を遮った。
「ベースよりメッドワンへ。翡翠岳にて雪崩発生。スキーヤー二名が埋没。GPS座標、送信中」
小林沙織の声が聞こえるより先に、私はもうヘルメットに手を伸ばしていた。
「榎本栞、状況が急速に悪化しているわ。本当に行くの?」
渦巻く雪を見つめながら、オフィスで眠る絢紀のことを思う。一瞬、もし何かあったら、という考えが頭をよぎった。
でも、すぐにその考えを振り払った。この状況下で飛べる資格を持つパイロットは私だけだ。それに、こんなことはもう百回も経験している。朝には卵焼きのために戻ってくる。
「メッドワン、応答」
無線にそう告げ、私はすでにヘリコプターに向かって歩き出していた。
手慣れた様子で、飛行前点検をこなしていく。
十二年間、山岳救助に携わってきた今、これらの動作は呼吸と同じくらい無意識のものだった。ヘリは私の第二の我が家だ。そして今夜、この機体は私たちを地獄のような状況から運び出さなければならない。
離陸した瞬間、突風が機体を襲った。サイクリック・スティックを通してあらゆる突風を感じながら、必死に操縦桿を握りしめた。
天候は予報よりも悪く、稜線に向かって上昇するにつれて視界はほぼゼロにまで落ち込んだ。
「メッドワンよりベースへ。上空の状況、極めて劣悪。目標エリアへ進む」
小林沙織の声が雑音に混じってかろうじて聞こえ返ってきた。
「了解、榎本栞。気をつけて」
GPSは目標が近いことを示していたが、雪の壁のせいで何も見えなかった。悪天候の層の下に出ようと、高度を下げた。
あった――白の中に、オレンジ色の布が閃いた。
見つけた。
半ば埋もれた二つの人影。一人が弱々しく手を振っている。まだ生きている。安堵感で、どっと体の力が抜けた。
「ベース、遭難者を視認。救助アプローチを開始する」
ここからが正念場だ――この強風の中でホバリングを維持し、パートナーの水上悠斗が救助装備と共に降下するのを待つ。ヘリは突風に煽られて暴れ、機体を安定させようと奮闘する私の全身の筋肉が軋むのを感じた。
その時だった。パイロットなら誰もが知る、そして恐れる、あの軋るような音を聞いたのは。
エンジン故障。
計器盤の警告灯が一斉に点灯し、突如、ヘリは飛ぶのではなく、落ちていた。私たち自身が雪崩の一部と化す前に、どこかに不時着する場所を見つけるまで、おそらく三十秒もなかった。
嘘、嘘、嘘よ。今だけは、やめて。
これまで学んだあらゆる技術、体に叩き込まれた全ての緊急手順を総動員した。だが、山はあまりに険しく、風はあまりに強く、そしてエンジンはもう手遅れだった。
「メーデー、メーデー!メッドワン、墜落する!」
もう絶望的だと分かっていながらも、操縦桿と格闘し、無線に向かって叫んだ。
「小林沙織、聞こえるなら――絢紀に、ママは愛してるって伝えて。勇敢でいてって。それから、あの子に――」
無線は、そこで雑音に変わった。
ごめんね、絢紀。本当に、ごめんね……。
衝撃は、ハンマーで殴られたかのようだった。痛みは胸に、頭に、全身に、一斉に爆発した。世界が回転し、暗転した。最後に聞こえたのは、金属が岩に引き裂かれる、恐ろしい音だった。
そして……無。
いや……。
目を開けた時、天国か、さもなければ完全な無か、そのどちらかが見えるものだと思っていた。それなのに、私は雪の中に立ち、自分のヘリコプターの残骸を見下ろしていた。非現実的な光景だった――非常用の発光信号が墜落現場をオレンジ色に照らし出し、捜索救助隊がその一帯に群がっている。
そして、ねじくれた金属の塊の中に、私の身体があった。
嘘だ。
自分の顔に触れようとしたが、手はすり抜けてしまった。実体も、重さもない。私はそこにいるのに、いない。すべてが見えるのに、何一つ影響を及ぼせない。
私は、死んだのだ。
その事実は、二度目の墜落のように私を打ちのめした。絢紀。私の、小さな娘。あの子はこれからどうなってしまうの?
私の思考に呼び寄せられたかのように、それが聞こえた――絢紀の声。遠くから私を呼ぶ、細く怯えた声が。その音は私の内なる何かを深く引き寄せ、気づくと、私はもう墜落現場にはいなかった。
救助基地の、私のオフィスの戸口に立っていた。
絢紀がそこにいた。私のお下がりの救助ジャケットを着て。あまりにぶかぶかで、袖は彼女の手を通り越して垂れ下がっている。窓に顔を押し付け、決して来ることのないヘリコプターの灯りを探していた。
「ママはどこ?」
絢紀は、近くで赤い目をして座っている小林沙織に尋ねた。
「彼女は……大事な任務なのよ、絢紀ちゃん」
小林沙織は、震える声でなんとかそう言った。
「本当に、大事な任務なの」
本当のことを言って、と叫びたかった。これ以上、辛い思いをさせないで。
でも、絢紀はただ、こくりと厳かに頷いた。
「ママはいつも人を助けるの。ヒーローなんだ」
彼女は小さな手のひらを窓に押し当てた。
「帰ってくるまで待ってる」
胸の中のナイフが、さらに深くねじ込まれた。私は駆け寄り、必死に彼女を抱きしめ、すぐそばにいると伝えたかった。でも、私の腕は、まるで空気にできているかのように、その小さな体をすり抜けた。
触れられない。慰めてあげられない。何も、できない。
私は彼女の椅子のそばに膝から崩れ落ちた。もはや持たない顔を、感じることのできない無意味な涙が伝っていく。絢紀は窓辺での見張りを続けていた。あまりに勇敢で、あまりに信じきって。これからもっと恐ろしくなる世界に対して、私のジャケットを鎧のように身にまとって。
隅のテレビではニュースが流れていた。
「……吹雪の中の救助活動中に捜索救助ヘリが墜落。パイロットの榎本栞さんは現場で死亡が確認されました……」
小林沙織が慌ててリモコンに手を伸ばしたが、手遅れだった。たとえ絢紀がまだ言葉の意味を完全には理解していなくても、その心に傷はついてしまった。
だがその時、別の何かが私の注意を引いた。背後で電話が鳴り、誰かがそれに出た。
「山岳救助基地、渡辺です」
電話の向こうの声は遠かったが、すぐに分かった。八年間も聞いていなかったけれど、どこで聞いても絶対に分かる声。
渡辺昭。
「今夜のヘリの墜落事故の件でお電話しました。パイロットは……彼女は……?」
実体のない心臓が止まった。どうして彼が電話を?今更、どうして気にかけるの?
「はい、榎本栞さんは……。失礼ですが、どちら様でしょうか?」
長い沈黙があった。
「ただの……昔の知り合いです」
渡辺昭。八年経っても、全てが終わった後でも、彼はまだ私の安否を確かめていた。でも、なぜ?彼はとっくに政治家としてのキャリアに専念して、昔、命を救った山育ちの女のことなど忘れてしまったのだと思っていたのに。
大きすぎる私のジャケットを着て窓辺で待ち続ける絢紀を見つめながら、私の心に新たな疑問が生まれた。
彼は、この子の存在を知っているのだろうか?







