第121章 予期せぬ喜び

あの日以来、桜井心春は頻繁に顔を出すようになった。

手作りの小さな焼き菓子を差し入れたり、地元の花を一輪挿しに合う程度に束ねてきたり。「近くまで来たので」と言って、十分だけ座って帰ることもある。

長居はしない。言葉遣いはいつだって柔らかく丁寧で、月岡古雅には殊更に恭しく、柊木禅司とはきっちり距離を保っていた。

そして、あの日。

桜井心春が月岡古雅に、新しく出た香水をすすめてきた。

月岡古雅がひと嗅ぎした瞬間、ぐらりと視界が揺れる。

慌てて立ち上がった彼女は、込み上げるものを堪えきれず洗面所へ駆け込んだ。げほっ、と乾いたえづきが喉から漏れる。

柊木禅司の顔色がさっと変わる。低く沈...

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