第70章 無事に帰るから

十数秒の通話。柊木禅司が口にしたのは、「……うん」その一言だけだった。

けれど、張りつめていた身体はすでにほどけている。全身を刺していた冷えも、ずいぶんと溶けていった。

脇では菊池炎が耳をそばだて、やけに晴れやかな笑みを浮かべている。

「兄貴、聞いた? 心、ぎゅっと掴まれた? 最初からそうしてりゃよかったのにさ」

柊木禅司は伏し目のまま、月岡古雅の呼吸を思い返す。

乱れていない。静かで、安定していた。

そして視線を菊池炎へ向ける。

その目に、炎が期待していた焦りも恐怖もない。あるのは、うっすらとした哀れみだけだった。

――柊木安正が知ったら、どう思うだろうな。自分の唯一の生き...

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