第72章 中毒

柊木禅司は追わなかった。いま一番大事なのは月岡古雅の無事だ。心配でたまらない目で、彼女を見つめる。

「大丈夫か? どこか怪我は」

「平気」

月岡古雅は首を振り、顔を上げた。

「禅司さんは?」

柊木禅司は笑って、「平気だ」と言いかけ――ふいに彼女から手を離す。視線が、どこか複雑に揺れた。

怪我はしていない。なら、平気のはずだ。

だが、この数日は苦しくて仕方がない。平気と言い切れるほど、楽でもない。

しばらく沈黙してから、彼は冷えた声を作った。わざとらしいほど不器用に。

「俺は平気だ。月岡さんも気にしなくていい。どうせ俺たちの間に信頼なんてない。俺が何を言っても、月岡さんには同...

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