第73章 条件

柊木禅司が川島唯の滞在するホテルに駆けつけたとき、出迎えたのは川島唯の秘書だった。

無表情の男は、柊木禅司を横目で値踏みする。

「悪いけど、川島先生は誰にも会わない。お引き取りを」

来る前に、柊木禅司は川島唯の情報を一通り洗っていた。

五十八歳。かつては国際的に名の知れた慈善医師で、F国へ無償で赴き診療した回数は数え切れない。

だが五年前、夫を亡くしてから性格が一変した。末期の患者を玄関先へ運ばれても見殺しにしたという。

それでも、人が変わっても嗜好までは変わらない。

柊木禅司は秘書へ言った。

「彼女に伝えてくれ。ここに、解剖手稿の真筆がある」

秘書は手稿にちらりと視線を落...

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