第65章 逃走

翌日、夜。街はまるごと闇に呑み込まれていた。

相沢千夏の心臓が太鼓みたいに暴れ、静まり返った廊下に自分の息づかいだけがやけに響く。二時間前。見張りの屈強な男たちが酔い潰れた隙を突き、彼女はわざと挑発して鉄格子をほんの少し開けさせた。狙いどおりだと分かった瞬間、全身の力を振り絞って一人を倒し、奪った銃で腕と脚を撃ち抜く。ほとんど息継ぎもせず、部屋から飛び出した。

だが――この建物の構造が、狂っている。

どれだけ走っても出口に辿り着けない。階段も廊下も、曲がって、折れて、分岐して、同じ景色が何度も繰り返される。まるで迷路だ。

そして、短髪の女は焦る気配すら見せない。千夏がどこにも逃げられ...

ログインして続きを読む