第74章 戻れない

競売会の会場。壇上で、クロスおじい様はゆっくりと椅子に腰を下ろし、震える手で胸元を押さえたまま目を閉じた。

「十分、休憩を入れよう」

掠れた声が落ちる。

「少し、話し合いが必要だ」

司会者が慌てて休憩を告げた。

クロスおじい様は数名の専門審査員とともに立ち上がり、隣の個別協議室へと入っていく。

会場にはざわめきが波のように広がった。

「氷川グループ、今回やらかしたんじゃない?」

「顔色、最悪だったよな。相当、気分を害したんだろ」

「坂本家で決まりってこと?」

……

十五分後、協議室の扉が開いた。

クロスおじい様が姿を現す。表情は、さっきまでの険しさが嘘のように凪いでい...

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