第76章 実験

それを聞いて、相沢千夏は小さく首を傾け、氷川隼人を見た。

隼人が静かにうなずく。千夏はふっと笑みを浮かべ、視線を戻して瞳を伏せた。声は不思議なくらい落ち着いている。

「私がまだ小さかった頃に、両親は亡くなりました。妹と二人、支え合って……ここまで来たんです」

クロスおじいさんの指先が、かすかに震えた。

「毎年、春になると思い出します」

千夏は顔を上げる。目の縁がうっすら赤い。

「父が私を連れて凧を揚げてくれた午後。台所で料理をしていた母の背中。あの記憶は春みたいに綺麗で……でも、もう戻れない」

息を深く吸い込んで、言った。

「離れてしまっても、ずっと私の中で生きています」

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