第84章 無事でよかった

相沢千夏の髪は少し乱れ、頬には煤がうっすらと付いていた。ドレスの裾も汚れている。杖を突いて立つ姿は、どこか滑稽ですらある。

「乗れ」

氷川隼人の声には、感情の起伏がなかった。

相沢千夏はきょとんとする。

まだ電話すらしていないのに、どうして彼がここに? しかも、こんなに早く。

「何ぼさっとしてる。帰りたくないのか」

氷川隼人はドアを開けて降りると、そのまま彼女の前まで歩み寄った。

「私……」

相沢千夏が言いかけた、そのとき。エミヤが先に口を挟んだ。

「氷川社長、奥様はお任せします」

エミヤは相沢千夏を支えていた手を離し、氷川隼人に軽く会釈する。

「私たちは先に失礼します...

ログインして続きを読む