第95章 海に落ちた

その中から現れた老人が、深くかぶっていた帽子を外した。露わになったのは、真っ白な髪。

額から目尻にかけて刻まれた皺は、乾いた谷のように深い。世の機微を見尽くした者だけが持つ、沈んだ落ち着きと、刃のような鋭さがそこにあった。

さっきまで狂気じみた顔で暴れ、必死に抵抗していた高音は、老人の姿を認めた瞬間、目を見開いた。

瞳孔がぶるりと震え、短刀を握りしめていた手が、力を失ってだらりと落ちる。

「……師匠?」

魂の底から湧き上がる畏れと罪悪感が、彼女の身体を小さく震わせた。

老人は答えない。眉をわずかに寄せ、相沢千夏と高音の間へ視線を一度走らせる。

濁っているはずの眼は、なお鋭い...

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