第2章

「ぷっ……」小林理沙は驚きのあまりワインを吹き出した。「もう一度言って?」

水原花子は目を輝かせながら、あの隅にいる男をじっと見つめた。「佐々木家の嫁になれないなら、佐々木悟の叔母さんになってやるわ。あの二人に嫌がらせするためにね」

小林理沙は口元を拭きながら、突然元気いっぱいになった水原花子を見て、親指を立てた。

「賛成!叔父さんの方が佐々木悟よりイケメンだし、金も権力も佐々木家より上だよ。いい人を見つければ、水原グループでの地位も安泰だし、水原香織に負けることもない。まさにこの叔父さんがぴったりだよ!」

水原花子は一瞬驚いたが、理沙の言うことが正しいと気づいた。確かに、小林理沙の見通しは鋭い。

もし水原香織が佐々木家の嫁になったら、自分の立場は危うくなる。

「よし、今すぐ彼を落としてみせるわ!」

水原花子はまるでやる気が湧いてきたかのように、小林理沙の小さなバッグを奪い、化粧品を取り出して化粧を直し始めた。

小林理沙はからかうようにウインクしながら、「本当にうまくいくと思う?」

「男なんて手玉に取るよ、見てなさい」

水原花子は髪をかき上げ、半分残ったワインを手に取り、少し酔った勢いと美しさを武器に腰をくねらせながら近づいていった。

「こんにちは、ちょっとお時間いいですか?今何時か教えていただけますか?」

水原花子は彼の肩に軽く指を置いた。

男は微かに酔った目を開け、水原花子の頭に「妖艶」という言葉が浮かんだ。

彼女は数秒間ぼんやりしてから、絶美な笑みを浮かべて柔らかく言った。「これは私たちの幸せな出会いの始まりだと思います」

西村達也は冷たく眉をひそめて言った。「俺は医者じゃない、病気は治せない」

「え?」水原花子の笑顔が固まった。

「頭が壊したの?」男のセクシーな唇が微かに動き、言葉は非常に辛辣だった。

その瞬間、水原花子は恥ずかしさを感じた。こんな美しさでも彼を誘惑できないのか?

しかし、男の心は海の底の針のように分からないものだ。佐々木悟が自分を裏切ったのもそのためだ。水原花子はすぐに冷静になり、恥ずかしそうに笑った。

「本当に病気なんです。でも頭じゃなくて、恋の病です。さっきかかったばかりの」

西村達也の眉が微かに上がった。水原花子は急いで言った。「運命の人に会えば喜びすぎることになりました。まさに私の病状です」

「分かった、もう行っていいよ」

男はまだ面倒くさそうにしていた。

水原花子は大きな打撃を受けた。こんなに色々とアプローチしても無視されるなんて。彼女は愛栄町で最も美しいと認められたお嬢さんなのに。本当に帰りたくなったが、あの二人のことを思い出し、佐々木悟の叔母さんになるために再び勇気を出した。

「お兄さん、SNSを交換しませんか?」

「お兄さん、連絡先を教えてくれませんか?」

「お兄さん、お名前は?」

「お兄さん、本当にかっこいいですね。女性が抗えないほど」

西村達也は最初はソファにだらしなく寄りかかり、目を閉じて無視していた。しかし、この恥知らずな声に耳が痛くなり、目を開けて苛立ちを見せた。「一体何がしたいんだ?」

「結婚したいの」水原花子は考えずに口に出した。

西村達也は口元を引きつらせ、眉間を揉みながら彼女を奇妙な目で見た。水原花子は決して退かずに見つめ返した。

「私、水原花子、22歳。ハーバード大学を卒業したばかりです。料理もできるし、健康で有能、思いやりもあります。悪い習慣はありません。最も重要なのは……」

彼女は自信満々に彼を見つめて言った。「こんな美しい妻がいれば、あなたはすべての男の羨望の的になるでしょう」

この言葉を言い終えた後、彼女は西村達也の表情を注意深く観察しながら、心の中で『彼を怖がらせてしまうかしら?』と思った。

案の定、西村達也は沈黙した。

水原花子が針のむしろに座っているような気持ちで、失敗の予感に襲われたその時、突然体が軽くなった。

同時に周囲から驚きの声が上がった。西村達也が彼女をお姫様抱っこして、クラブから急ぎ足で連れ出したのだ。

男の清涼で確固たる声が水原花子の頭上から聞こえた。「いいよ」

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