第27章

「啓峰に戻ることは考えたことないの?」

水原花子は悲しげに首を振った。「人は他人のものに頼ってばかりじゃダメ。自分の力で頑張るのが一番確実だから」

西村達也は心の中で驚いた。彼の周りには、彼女のように物事を見通し、理解している人はほとんどいなかった。

「もう拾わなくていいよ」

「ダメです」水原花子は即座に首を振った。「会社の状況もあまり良くないし、チラシを捨てるわけにはいかない。それに、全部捨てたら清掃員さんも掃除が大変になる」

彼女が言い終わると、長くて綺麗な指が彼女の前のチラシを拾い上げた。

「手伝うよ」西村達也はしゃがみ込み、手を伸ばしたときに袖の中から見えた腕時計は、彼女...

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