第4章

素髪で、小さな顔に素朴な美しさ、まるで泥の中から咲いた清らかな花のようだった。

「花子ちゃん、やっと帰ってきたね。昨日のこと、心配してたんだよ」水原香織は申し訳なさそうな顔をして言った。「でも、悟は本当にあなたを好きじゃないんだ。感情のことは無理強いできないよ」

水原花子の目が冷たく光った。「もういいよ、ここには他に誰もいないんだから、そんなふりしなくていい。今まで、あなたを見くびってたわ」

「そんなこと言わないで」水原香織は唇を噛み、涙をこぼした。「これからは、あなたが欲しいものは全部譲るから、会社のことも口出ししないよ。この資料も全部あげる」

そう言って、資料を一気に花子の手に押し付けた。

水原花子は訳が分からず、反射的に手を伸ばして押し返したが、資料は「バサバサ」と床に散らばった。

「何をしているの？」

突然、佐藤理子が階段を上がってきて、涙を流す水原香織と床に散らばった資料を見た。

「これはお父さんがあなたに見せるように言った会社の資料じゃないの？」

「お母さん、怒らないでください。全部私が悪いんです」水原香織は顔を真っ白にして急いで説明した。「花子ちゃんが会社のことに口出ししないでって言ったから、この資料を渡そうとしたんです。でも、悟のことがあって、彼女は気分が悪いみたいで…」

「嘘をつくな…」水原花子は彼女の言葉に怒りを覚えた。

「黙りなさい」佐藤理子は水原花子を怒りの目で睨んだ。「会社のことをあなたが決めるなんていつからだ？この資料は香織に見せるためのものだ。来週から香織は正式に部長になるんだから、あなたはおとなしくしてなさい」

水原花子は驚いた。「私の方が学歴も高いし、経験も豊富なのに、会社に入って一年経っても部長になれなかったのに、どうして彼女がいきなり部長になれるの？」

「お母さん、やっぱり部長はやめます。花子ちゃんとの関係を壊したくないんです」水原香織は涙声で言った。

佐藤理子は香織を抱きしめて、「聞いたかい？香織は姉妹の絆を大事にしているのに、あなたは心が狭くて、細かいことにこだわる。だから悟も香織を選んだんだよ」

心が狭くて、細かいことにこだわる。母親はそう思っているのか。その言葉は鞭のように水原花子の心に打ち付けた。

どうしてこんなに偏っているのか。

母親のそばで育ったのに、母親は自分のことを理解していないのか。

昨日から今まで、誰一人として彼女を慰めてくれなかった。まるで全てが当然のことのように。

今まで感じたことのない怒りが込み上げてきた。水原花子は二歩後退して、「分かった、私がそんなに悪いなら、出て行くよ」

そう言って部屋に戻り、スーツケースに服を一気に詰め込んだ。

ドアの外から水原香織の声が聞こえた。「お母さん、花子ちゃんが怒ってるよ。私たち、彼女を説得しようよ」

「放っておきなさい。彼女はそういう性格なんだから、甘やかされて育ったんだ。数日経てば自分で戻ってくるよ。さあ、あなたは婚約するんだから、新しい服を買いに行こう」

声は次第に遠ざかっていった。

大粒の涙が手の甲に落ちた。水原花子はスーツケースを持って階段を下り、車に乗り込んだ。

その瞬間、彼女は全てを失ったように感じた。家族も、愛も、全てが遠ざかっていった。

何も間違っていないのに、どうしてみんながこんなに冷たいのか。

彼女はハンドルを強く握りしめ、目には強い悔しさが浮かんでいた。