第92章

夕暮れが迫るころ、田山夜子が家に戻ると、父の田山定信が、ちょうど市役所の職員らしき来客を見送ったところだった。

娘の姿を見つけた瞬間、田山定信の顔に、いかにも父親らしい慈愛の笑みが浮かぶ。

「また藤原家に行ってたのか? まだ嫁に出てもいないのに、もう藤原家の人間みたいじゃないか。家でお前の顔を見られるかどうか、運次第だな」

田山夜子は父の腕にぎゅっと絡みつき、甘えるように言った。

「娘がどこに行ってても、いちばん大事なのは、いつだってお父さんとお母さんだよ」

田山定信の胸は、ふわりと甘く満たされる。だが、藤原英世との関係が一向に進まない現実を思うと、すぐに薄い憂いが差した。

「…...

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