第3章

翌朝、私はいつものように仮設のオフィスへ向かい、パソコンを開いて新しいキャラクターデザイン案の作業に取り掛かった。沖縄のクライアントのプロジェクトディレクターは私のデザイン案にたいそう満足したようで、何度も頷きながら言った。

「島尻さんのデザインは、我々の予想を遥かに上回る出来栄えです」

昼休み、私はスマートフォンを開き、「#沖縄ワーキングライフ」というハッシュタグを添えて、オフィスの窓から見える遠くの青い海景色の写真と共にステータスを更新した。

まさかこの何気ない投稿が、友人たちからすぐさま熱烈な反応を呼ぶことになるとは思わなかった。

「彩里! 沖縄どう? 海、やっぱりめちゃくちゃ青い?」

「沖縄で仕事なんて羨ましい! こっちはちょうど寒くなってきたところだよ」

「神森くんはどうしてるの? 会いに行った?」

私は最後のコメントをじっと見つめ、指先をスクリーン上で数秒間止めた。十日前の私たちの喧嘩はすでにSNSで広まっていたが、誰もが私たちの付き合いのパターンに慣れていた——喧嘩、別れ、私からの謝罪、そして復縁。まるで皆が、今回私たちはいつ仲直りするのかを見守っているかのようだった。

私は「新しい環境に適応中」と返信した。

するとすぐに誰かが追撃してきた。

「まだ別れたままなの?」

「別れたまま、継続中」

私はごく短く答えた。

スマートフォンを置こうとしたちょうどその時、見慣れた名前が着信画面に表示された——小林。彼女は神森悠の友人の彼女で、私たちは時々一緒に集まりに参加していた。

「彩里、元気?」

小林の声はどこか意図的に明るく聞こえた。

「この間、東京のマンションに会いに行ったら、沖縄に行ったって知って」

「うん、会社からこっちのプロジェクトを任されてて」

私は簡潔に説明した。

「知ってる?」

小林は一瞬言葉を切り、声を潜めた。

「神森くん、最近よく田中寿美子さんと一緒にいるのよ。先週は銀座でデートしてて、神森くん、彼女にミキモトのパールピアスをプレゼントしたんだって」

私の心臓がどきりと沈んだが、すぐに平静を取り戻した。不思議なことに、その知らせは想像していたほど私を苦しめなかった。

「そうなの?」

私は自分の声が出来る限り平静に聞こえるよう努めた。

「彩里」

小林の口調が艶めかしくなる。

「謝りに行かないの? でも、今までだっていつもあなたが謝って、それで仲直りしてたじゃない?」

私はスマートフォンを強く握りしめ、深く息を吸った。

「小林、私が謝っていたのは、その時まだ彼のことを気にしていたからよ。もしもう、気にならなくなっていたとしたら?」

気にならなければ、自ずと嫌なことを無理強いすることもなくなる。

電話の向こうから突然、襖が開く音がし、それから女性の甘ったるい「悠くん」という呼び声が聞こえた。小林は慌てて「また後でかけるね」と言うと、そそくさと電話を切った。

私は黒くなった画面を見つめ、今の通話を冷静に分析した。小林は社交的だが嘘が下手だ。先程の彼女の口調は明らかに不自然だった。あの「悠くん」という声、それに彼女の慌てふためく反応……。

推測するまでもなく、神森悠は小林のそばにいる。

案の定、五分も経たないうちに、小林から長いLINEメッセージが届いた。

「彩里、ごめんなさい! 神森くん、この三日間ずっと私と彼氏の家に泊まってるの。彼、私たちと仲がいいのを知ってて、無理やり私に電話させてあなたの態度を探らせたの。きっと後悔してるんだけど、自分から直接連絡するプライドが許さないんだと思う。田中さんとはただ家族ぐるみの付き合いなだけで、あなたが思ってるような関係じゃないから……」

私はスマートフォンを置き、窓の外の青い空を見上げた。

十年。神森悠は相変わらずあの傲慢な神森悠のままだ。私とやり直したいとさえ思っていても、他人を通して探りを入れる。

午後三時、私のスマートフォンの画面が光り、「神森悠」が着信中であることを示した。

私は出なかった。ただ、それが鳴っては止み、止まってはまた鳴るのを見ていた。

沖縄に来て一ヶ月近く。神森悠が初めて自ら私の電話を鳴らした。

続けて、ブロックしていない見知らぬ番号からショートメッセージが届いた。

「島尻さん、俺のノースフェイスのダウン、そっちに置いてないか?」

私はそのメッセージを睨みつけ、思わず苦笑した。

これが、あなたが十年愛した男。この期に及んでも、彼は少しも身を低くしようとはしない。

夜、アパートに戻ると、またスマートフォンが震えた。あの見知らぬ番号からだ。着信拒否しようと思ったのに、どういうわけか指が通話ボタンをスライドさせてしまった。

「もしもし」

私は平然と言った。

「お前、本当に沖縄行ったのか?」

神森悠の声が、受話器の向こうから嗄れた低い声で聞こえてきた。

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