第5章
神森悠を遥か彼方に置き去りにする感覚は、想像していたよりもずっと心地よかった。
沖縄支社のバルコニーに立ち、遠くに広がる紺碧の海面を眺めていると、心に今までにないほどの平穏が満ちてくる。
あの日、彼を拒絶してから、私は一度も振り返らなかった。
十年間で初めて、私は口論を謝罪せず、仲直りを懇願せず、自分の立場を譲らなかった。
それ以来、この男はもう私の行く手を阻むことはできない。
仕事上の決断であれ、生活の中での選択であれ、私はもう「神森悠がどう思うか」を考える必要はなくなったのだ。
気の向くままに海辺を散歩できるし、彼からのメッセージ爆撃を気にすることなく同僚たちと...
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