第10章 永遠の苦しみ
冬の沖縄に降るのは、雪ではなく冷たい雨だった。
松原一也の黒いコートの肩を、音もなく濡らしていく。
彼は佐藤和子の家の門前に、もう五日も立ち尽くしていた。
積もっていくのは雨粒だけではない。眠れぬ夜に刻まれた目の下の深い隈と、紙のように白い顔色が、彼の憔悴を物語っていた。
最初の四日間、和子はドアを開けることすらしなかった。
「佐藤さん」
松原一也の声は、彼自身のものとは思えないほど掠れていた。
「お願いします。はるかが……生前よく行っていた場所に、俺を連れて行っていただけませんか」
ようやく、家の中から足音が聞こえた。ドアが開き、和子が感情の抜け落ちた顔で...
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チャプター
1. 第1章 無視された愛
2. 第2章 触れられない距離
3. 第3章 裏切りの恋人
4. 第4章 遅れてきた深情
5. 第5章 最後の賭け

6. 第6章 永遠に恥じる

7. 第7章 残された人が一番苦しい

8. 第8章 重い思い出

9. 第9章 こまめの付き添い

10. 第10章 永遠の苦しみ

11. 第11章 許せない自分


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