第7章 残された人が一番苦しい
言い知れぬ胸騒ぎが、松原一也の心を蝕んでいた。
東京の、殺風景な病院の廊下。彼は無意識にスーツの袖口を弄りながら、焦点の合わない目で窓の外をただ眺めていた。
何かかけがえのないものが、この掌から零れ落ちていく。そんな漠然とした喪失感があった。
足早に通り過ぎる看護師の気配。鈴木紗織の病室のドアが、静かに閉められた。
「松原さん、鈴木さんの点滴、終わりましたので」
事務的な声が、彼の思考を遮る。
「……ありがとうございます」
一也は頷き、腕時計に目を落とした。
午前一時。
そろそろ帰らなければ。はるかが待っている。
踵を返そうとした、その時だった。病室...
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チャプター
1. 第1章 無視された愛
2. 第2章 触れられない距離
3. 第3章 裏切りの恋人
4. 第4章 遅れてきた深情
5. 第5章 最後の賭け

6. 第6章 永遠に恥じる

7. 第7章 残された人が一番苦しい

8. 第8章 重い思い出

9. 第9章 こまめの付き添い

10. 第10章 永遠の苦しみ

11. 第11章 許せない自分


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