第7章 残された人が一番苦しい

言い知れぬ胸騒ぎが、松原一也の心を蝕んでいた。

東京の、殺風景な病院の廊下。彼は無意識にスーツの袖口を弄りながら、焦点の合わない目で窓の外をただ眺めていた。

何かかけがえのないものが、この掌から零れ落ちていく。そんな漠然とした喪失感があった。

足早に通り過ぎる看護師の気配。鈴木紗織の病室のドアが、静かに閉められた。

「松原さん、鈴木さんの点滴、終わりましたので」

事務的な声が、彼の思考を遮る。

「……ありがとうございます」

一也は頷き、腕時計に目を落とした。

午前一時。

そろそろ帰らなければ。はるかが待っている。

踵を返そうとした、その時だった。病室...

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