第9章 こまめの付き添い

沖縄島の陽射しは東京のそれよりも強く、直接的だ。はるかは海に面した小さな療養院を借り、毎朝、波が岩礁を打つ音で目を覚ました。

ここは東京の喧騒から遠く離れ、松原一也も、鈴木紗織も、偽りも裏切りもない。

あるのはただ、青い空、碧い海、こまめ、そして、消えゆく彼女の命だけ。

昼間、はるかはこまめを連れて沖縄の白い砂浜で遊んだ。初めて海を見たこまめは、興奮と警戒が入り混じった様子で、おそるおそる前足で浅瀬の水をかき回し、はるかを大笑いさせた。

「見て、こまめ」はるかは遠くの紺碧の水平線を指差した。「あそこが海の終わりで、そして新しい始まりなのよ」

夜は、海辺で夕日を眺めた。は...

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