第2章
午前三時。私はまだ『情熱の庭』で待っていた。入り口から店内に移動し、緊張で骨の芯まで震えていた。
カルロスは信じてくれるだろうか? 頭がおかしくなったと思われるんじゃないだろうか?
マリーゴールドの花弁を送ってから三時間、まだ返事はない。もしかしたら彼は花弁を見ていないのかもしれないし、幻覚だと思ったのかも……。
「お願い、カルロス……」私は虚空に祈った。「イカれてる話だってわかってる。でも、どうか信じて……」
その瞬間、店の中心で金色の閃光が走った。
私は心臓が飛び出るほど驚いた! 床には美しくラッピングされた三つの包みが現れ、興奮で私の眼窩が鮮やかな緑色に輝いた。
「うまくいった! 本当に信じてくれたんだ!」
震える手で、包みを開けるのが待ちきれなかった。ピンクのアロマキャンドルからは薔薇の香りが漂い、黒いシルクの目隠しは信じられないほど滑らかな手触り。そして琥珀色のマッサージオイルのボトルには『パッションフルーツの香り』と書かれたラベルが貼ってあった。
こんな品々、冥界ではまるで異星のテクノロジーだ!
私は興奮しながら商品を棚に並べ、それぞれの使い方を説明したカードを書いた。マーケティングの仕事をしていたからわかる。まずはお客さんに使い方を理解してもらわないと、売り上げには繋がらないのだ。
誇らしい気持ちで自分の『商売帝国』を眺めていると、入り口の方からカサカサと物音が聞こえた。
骸骨の夫婦が、恐る恐る中を覗き込んでいる。男性の骸骨は使い古されたカウボーイハットを、女性の骸骨は伝統的な花柄のドレスを身に着けていて、二人とも緊張のあまり眼窩の光が点滅していた。
最初のお客さんだ!
「『情熱の庭』へようこそ!」私は満面の笑みで二人に近づき、プロフェッショナルで親しみやすい雰囲気を心がけた。「とてもお似合いのご夫婦ですね! ご結婚されて、もう長いんですか?」
女性の骸骨は恥ずかしそうに指を絡ませた。「三十年……です。でも、私たち……その……」
「夫婦仲に、何かお悩みが?」私は優しく促しながら、心の中でガッツポーズをした。完璧なターゲット層だ!「それはごく普通のことですよ! こちらをご覧ください。あなたたちのようなご夫婦のために、特別にご用意したんです」
男性の骸骨がおずおずとアロマキャンドルを指差した。「この……キャンドルは、何が特別なんだ?」
私はぱっと顔を輝かせた。「ただのキャンドルではありません! これは夫婦仲を深める奇跡のアイテムなんです」私はミステリアスな効果を狙って声を潜めた。「今夜家に帰ったら、明かりを全部消して、このキャンドルだけを灯してください。薔薇の香りが、初恋の胸の高鳴りを思い出させてくれますよ」
女性の骸骨の眼窩が、途端にぱっと明るくなった。「本当に?」
「もちろんですとも!」私はシルクの目隠しを手に取り、ますます熱を込めて言った。「これと組み合わせれば、ミステリアスな雰囲気と期待感が加わります。結婚三十年ともなれば、新しい刺激が必要でしょう?」
二人の眼に希望の炎が灯るのを見て、私は達成感で胸がいっぱいになった。この愛すべき骸骨たちは、私の助けをこんなにも必要としているんだ!
男性の骸骨が、静かにマッサージオイルを指差した。「あのボトルは……」
「マッサージオイルです! パッションフルーツの香りで、カップルのために特別に作られたものですよ」私は真剣に説明した。「これを手に取って、お互いにマッサージしてあげてください。疲れを癒すだけでなく……二人のスキンシップを深める効果もあるんです」
女性の骸骨は恥ずかしそうに顔を覆った。「こ、これって……本当に効くのかしら?」
「効果は保証します!」私は自信満々に胸を叩いた。内心では、もし自分が一度も試したことがないと知られたら、彼らはすぐに逃げ出すだろうな、なんて思っていたけれど。「開店記念につき、お得な三点セットを驚きの五十記憶片コインでご提供します!」
男性の骸骨はすぐに財布を取り出した。「それをいただこう!」
キラキラと輝く記憶片コインが私の手に落ちてくるのを見ながら、私は興奮の叫びを必死にこらえた。やった! 私、冥界で初めてアダルトグッズを売ったんだ!
「またいつでもお越しください!」私は心から言った。「使い方でわからないことがあれば、いつでもご相談に乗りますからね! 覚えておいてください、愛には勇気と革新が必要なんです!」
最初のお客さんが幸せそうに去っていくのを見送り、私は天にも昇る気持ちだった。その後の数時間は、まるで夢のようだった。
一人、また一人と骸骨たちが店に忍び込んできては、誰もが同じように恥ずかしそうで、それでいて何かを渇望するような表情を浮かべていた。新しいことを試したい新婚夫婦、情熱を取り戻したい熟年夫婦、そして「将来に備えたい」という独り身の骸骨も少数ながらいた。
たった一日で、私は十数セットも売り上げた! 記憶片コインは小さな布袋をいっぱいにし、その重さに私は夢でも見ているんじゃないかと思ったほどだ。
でも、もっと重要だったのは、お客さん一人一人の眼に希望が見えたことだ。この保守的な骸骨たちは、伝統的なしがらみから抜け出したいと必死に願っていた――彼らはただ、誰かにきっかけと、理由と、口実を与えてもらう必要があったのだ。
そして、私が彼らに希望を与える人間なのだ。
夕方、私は店で売上を数えながら、複雑な感情の渦にのまれていた。成功の興奮、カルロスへの思慕、未来への期待、そしてほんの少しの不安。
そろそろカルロスと、きちんと話をする時だ。もっと在庫が必要だ――この市場のポテンシャルは、私の想像をはるかに超えていた。
カウンターの下からマリーゴールドの花弁を一掴み取り出し、深呼吸をする。マリーゴールドの花弁は簡単なメッセージしか送れないが、ミゲルさんが言っていた「記憶の泡」という、死者と生者が直接対話できる方法があったはずだ。
「この方法が、本当にうまくいきますように」私は囁いた。
花弁を宙に舞わせ、目を閉じ、そっと詠唱を始める。「Puente de pétalos, conecta nuestros corazones……」
温かいオレンジ色の光が私を包み込み、自分が魔法のような空間へと転送されていくのを感じた。そこはまるでマリーゴールドの花弁でできた夢のような泡の中で、温かい光が私の心に安らぎをもたらしてくれる。
そして、彼が見えた。
「カルロス!」私は興奮して彼に駆け寄り、数歩手前で足を止めた。自分が今や骸骨であることを忘れかけていた――抱きついたら、彼を怖がらせてしまうかもしれない。
カルロスは振り返り、私の姿を見てまだ息を呑んでいた。「エレナ? 本当に……本当に君なのか?」
「もちろん私よ!」興奮して彼に抱きつきたかったが、理性がそれを押しとどめた。「信じてくれてありがとう! あの品物を買ってくれてありがとう! あなたがいてくれて、本当に良かった……!」
カルロスは信じられないといった様子で首を振った。「あの品物、本当に君のところに届いたのか? 君は本当に……あんなものを売っているのか?」
「売ってるだけじゃないわ! 私は商売の天才よ!」私は興奮のあまり踊り出し、飛べそうな気分だった。「カルロス、聞いてくれる? ここの骸骨たちって、すごく保守的なの! 何十年も連れ添っているのに、夫婦仲を深める方法を知らないのよ! 今日だけで十数セットも売れたんだから! 一つ五十記憶片コインで!」
カルロスの顔が赤くなった。「エレナ! 私があれを買った時、レジの店員がどんな目で私を見たか知ってるか? まるで私が……」
「変態なんかじゃないわ、あなたは私の希望そのものよ!」私は興奮して彼の言葉を遮り、その両手を取った。「カルロス、あなたの助けが必要なの! もっと助けが!」
彼の目に、恐怖がよぎるのが見えた。
「もっと色々な種類の商品が必要なの!」私は一息に言った。「ランジェリー、バイブ、潤滑剤、コスプレ衣装……カルロス、この市場にはとてつもない可能性があるわ! 私たちは生と死をまたにかける一大ビジネス帝国を築けるのよ!」
カルロスはむせ返りそうになった。「エレナ! 私にこれを買えって言うのか? 私は……」
「お願い!」私は恥も外聞もなく、カルロスに一番効くこの手を使って、唇を尖らせてみせた。「私を信じて! 私たちなら一緒に奇跡を起こせるわ! それに……」
私は一呼吸おき、感情を込めた。「このお金は、いずれ生者の世界に還元されるの。たくさんの人を助けられる計画があるのよ」
カルロスは私の輝く眼を見つめ、彼の心が葛藤しているのがわかった。死んだ恋人が冥界でアダルトグッズ店を開き、自分に仕入れを頼んでくるという超現実的な状況に、私の恋人はよくもまあ精神崩壊せずにいられるものだ。
「まったく、正気の沙汰じゃないな……」カルロスは苦笑した。「でも、君がそこまで言うなら……やってみるよ。ただ……」
「ただ、何?」私は心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、神経質に尋ねた。
カルロスは私を深く見つめた。「知りたいんだ。君は……そっちで大丈夫なのか? 本当に、幸せなのか?」
私の眼窩の光が一瞬、陰った。生者の世界が恋しくないと言えば、怖くないと言えば、心配していないと言えば、嘘になる。でも、カルロスにそれを見せるわけにはいかなかった。
「すっごく元気よ! それにあなたの助けがあれば、もっと元気になるわ!」私は再び光を強く輝かせようと努めた。
「わかったよ」カルロスは仕方なさそうに微笑んだ。「私の彼女は骸骨の起業家か……世界で一番奇妙なラブストーリーだろうな」
私は記憶の泡の中で興奮してくるりと回った。「カルロス、史上初の異次元アダルトグッズサプライヤーになる準備はできた?」
「選択肢はなさそうだね」カルロスは苦笑しながら首を振った。「でもエレナ……約束してくれ。何をするにしても、自分の体を大事にするんだ」
「約束するわ!」私は頷き、温かい愛が心に込み上げてきた。「それに、商売が軌道に乗ったら、あなたのそばに帰る方法だって見つけられるかもしれないわ!」
記憶の泡がゆっくりと消え始め、カルロスの姿がぼやけていく。
「忘れないでね!」私は大声で叫んだ。「ランジェリー、バイブ、潤滑剤! それとコスプレ衣装も! 信じて、私たち、大金持ちになるんだから!」
泡が完全に消えた時、私はがらんとした店の中に一人で立っていた。心の中は、様々な感情で満たされていた。
口では軽口を叩いたけれど、心の奥底では、彼が私を忘れてしまうのではないかと怖かった。
