第11章

財産分与を一切求めないという合意書にはとうの昔にサインしたし、一銭もいらないと明確に伝えてある。それでも彼にとって、彼女からの離婚の申し出は、警戒すべき財産分与の争いでしかなかった。

彼が恐れているのは『タイミングが悪い』こと。それが自分の会社に悪影響を及ぼし、損失を生むことだけだ。

――結局のところ、信頼などというものは、最初から二人の間に存在しなかったのだ。

滑稽で、そして哀れだった。彼女はきびすを返し、黙って個室へ戻ると、再び隅の席に腰を下ろした。その顔色は先ほどよりもさらに蒼白になっていた。

宴も半ばに差し掛かった頃、藤原司のスマホが鳴った。

画面の着信表示を一瞥すると、不...

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