第112章

彼女は彼の傍らに立ち、手際よく胸や腕を拭いていく。背中の傷口には触れないよう、細心の注意を払っていた。

温かいタオルが肌を滑るたび、微かな震えが走る。

藤原司は伏し目がちに、すぐ目の前にある彼女の横顔を見つめていた。その呼吸が、次第に荒くなる。

「お湯の温度、これで大丈夫?」沈川澪が何気なく尋ねる。その口調は、珍しく穏やかだった。

「ああ」藤原司は短く応じた。この束の間の温もりに、非現実的なまでの未練が胸の奥で芽生えていく。

先ほどまでの張り詰めた空気は鳴りを潜め、いくぶん和らいだように思えた。

沈川澪はタオルを洗い直し、彼の肩を拭きながら淡々と口を開いた。

「お爺様も同意して...

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