第44章

藤原司の頭の中は、包帯を巻かれた沈川澪の腕のことでいっぱいで、隣にいる朝倉月乃がどれほどいたたまれない状況に置かれているかなど、まったく気づいていなかった。

「桐谷さん、月乃がお酒を勧めてますよ」

事情を知らない隣の誰かが、場を和ませようと小声で促した。

桐谷景明はそこでようやくゆっくりと顔を上げ、朝倉月乃の顔に半秒にも満たない視線を這わせると、極めて薄く、冷ややかな笑みを浮かべた。

「俺には悪い癖があってね。酒は相手を見て飲むんだ」

空のグラスを弄びながら、気だるげで刺々しい口調で言う。

「こういう得体の知れない酒は、飲んだら吐き気がしそうだ。飲みたい奴のために取っておきな」

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