第70章

この三年間、彼女は形ばかりの結婚生活を繋ぎ止めるため、どれほどの理不尽を呑み込んできたことか。それでも、家族の前にだけは決してそれを悟らせまいとしてきた。

「お祖父様」沈川澪は深く息を吸い込み、顔を上げた。その瞳には、次第に澄み切った決意が宿っていく。「私、藤原司と離婚します」

書斎に一瞬の静寂が落ちる。

予想していたような驚きも引き止めもなかった。沈川正隆はただ静かに彼女を見つめ、やがて、深く長いため息をついた。

「覚悟はできたのか?」

「はい」沈川澪は頷いた。何日も胸につかえていた巨石が、この瞬間ふっと取り払われたようだった。「疲れました。これ以上、すり減りたくないんです」

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