第85章

沈川澪の瞳の奥に一瞬だけ失望の色がよぎったが、神崎湊を困らせたくはなかった。彼女は物分かりよく頷く。

「気にしないで。仕事が優先だし、早く行ってあげて」

神崎湊が去ると、沈川澪にはもう逃げ道すら残されていなかった。

藤原司は有無を言わさず彼女の手首を掴み、路肩に停まるマイバッハへと引きずっていく。

車のロックが解除された瞬間、朝倉月乃が一足先に進み出て、遠慮する素振りも見せずに助手席のドアを開け、身を屈めて乗り込んだ。その流れるような動作は、まるでその席が最初から自分のために用意されていたかのように手慣れていた。

沈川澪はその光景を見ても文句一つ言わず、感情の波すら一切見せなかった...

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