第89章

彼は瞳の奥に渦巻く焦燥と動揺を必死に押し殺し、助手席の沈川澪へと顔を向けた。

「澪、本当に申し訳ない」神崎湊の声はいつもの穏やかさを失い、微かな震えを帯びていた。「実家で急用ができてね。姉の子供が突然高熱を出して熱性けいれんを起こしたんだ。今、シッターが市立第一病院へ連れて向かっている。すぐに駆けつけないといけないから、君を家まで送れそうにない」

「気にしないで。命のほうが大事よ」沈川澪は落ち着いた、きっぱりとした口調で言った。「私も一緒に病院へ行くわ。人が多いほうが何かと助かるでしょう。あなたは運転に集中して」

神崎湊は彼女を一瞥し、その瞳に感謝の色を滲ませた。

彼は遠慮することな...

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