第7章
午前六時。家の中は、墓地のようにしんと静まり返っている。
リビングルームを、スーツケースのキャスターが立てる単調な音だけを響かせながら進む。壁という壁に飾られた家族の写真から、意識的に目を逸らしながら。最近撮られたものはどれも、星奈が写真の中央に陣取り、かつて私の場所だったはずのその位置で、太陽のように輝く笑顔を見せている。
キッチンのカウンターに、一枚のメモを残す。
『色々、整理してきます。――乙美』
そこには、怒りも、大げさな悲劇もなかった。ただ、終わりなのだという、静かな事実があるだけだった。
高速バスターミナルは、消毒液と破れた夢の匂いがした。新月市行きの片道チケ...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章

4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章


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