第237章 ここに君は要らない

 運転手は九条時夜が秋月雫を抱きかかえてやってくるのを目にすると、即座に車のドアを開けた。

 九条時夜は彼女を抱いたまま後部座席に乗り込み、ウェットティッシュを取り出すと、彼女の顔にこびりついた卵の白身や黄身を丁寧に拭い始めた。

 どんなに美しい人であっても、汚れてしまえば見る影もない。

 だが、今の汚れた彼女の姿は、彼の胸をひどく痛めつけた。手つきはどこまでも優しく、少しでも彼女を痛がらせないようにと細心の注意を払っていた。

 しかし、秋月雫にとってそれは、偽善的な優しさにしか思えなかった。

 彼女は顔を背け、彼の手を避けた。

「自分でやるわ」

「動くな」

 彼は低く、短い...

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