第294章 なぜ白川ゆらと去ったのか?

白川ゆらはびくりと肩を震わせると、秋月雫が指差した箇所を咄嗟に手で覆い隠した。

「これは……」

 言葉に詰まったのか、彼女は慌てて九条時夜を一瞥し、すぐに目を逸らす。

「蚊に刺されたの。キスマークなんかじゃないわ」

「蚊?」

 秋月雫は軽く舌打ちをする。

「この季節に蚊がいるわけないでしょう。少しでも常識があれば、あり得ないことくらいわかるはずだけど?」

 笑みを含んだその響きは、しかし強烈な威圧感を伴って室内に落ちる。

「じゃ、じゃあ、何かの虫かも。私にもわからないわ」

 白川ゆらは、秋月雫の視線を遮るように、首元をきつく押さえた。

 だが、雫はもう彼女を相手にはせず、...

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