第百十七章

夜の闇に、エンジンの低い轟音が響き渡る。

和也の運転する高級車が、夜の帳へと吸い込まれるように消えていった。

琴音は赤く腫れた自分の手の甲を睨みつけ、顔を醜く歪ませていた。

どうして私がこんな目に。

いくらなんでも、葵だってうちで何年も養ってあげたのに。恩知らずにも程があるわ。今になって少しも助けようとしないなんて。

「どうしたんだい?」

病院から出てきた悠は、琴音の険しい表情に気づき、心配そうに声をかけた。

婚約者の姿を認めるなり、琴音はすがりつくようにその胸に飛び込んだ。

「ひどいの……」

そう言って、先ほど起きた出来事を一気にまくしたてる。

「二人とも姉のくせに、ど...

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