第16話

「誰か外にいるのか?」

男の声は低く掠れていたが、微かに優しさが滲んでいた――晴美に向ける氷のような態度とは、まるで別人だ。

晴美がドアの隙間から覗き込むと、見慣れた背中がキッチンで立ち働いていた。袖を無造作に捲り上げ、逞しい腕が覗いている。

長身にエプロンをつけたその姿は、一見するとどこかの家庭的な主夫のようだった。

またしても胸をきつく鷲掴みにされたような痛みが走り、血が逆流して、息が詰まりそうになる。

忙しなく動いていた背中が、ふいにドアの方へ振り向いた。晴美は心臓を跳ねさせ、反射的にドアの陰に身を隠す。

コツ、コツ、と足音が近づいてくる。

「誰だ?」和也はドアの前に立ち...

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