第32章

梨乃の心配そうな声が、個室の静寂を破った。

平手打ちを食らったのだから、当然正当な処置を望んではいたが、これ以上晴美と家族の関係を悪化させたくなかったのだ。

彼女はありったけの力を振り絞り、晴美の手を引いてホテルを後にした。

タクシーの車内。

梨乃はわざと明るい声を出した。

「もう、そんな痛ましそうな顔しないでよ。平気だから。クズ男と泥棒猫は一生くっついてればいいの。それが一番の社会貢献よ。だから怒らないで、ね?」

晴美は無言だった。

梨乃は昔から、誰よりも美意識が高かった。

高校時代、誰もが受験勉強に必死になっている時でも、彼女だけは違った。毎日綺麗に着飾り、スキンケアもメ...

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