第88章

タクシーで新居に戻った晴美が玄関のドアを開けると、濃厚な香りが鼻を突いた。

ソファに座っていた大旦那様は、晴美の姿を認めると相好を崩した。

「お前さん、こんな時間まで仕事かい。何度も言っているだろう、体が一番大事だと。健康あっての物種なんだからな」

そう言いながら晴美の背後へ視線をやったが、一向に誰も入ってくる気配がない。大旦那様は微かに眉をひそめた。

「あの馬鹿は?」

晴美がすでに会社を辞めていることを大旦那様は知らない。二人揃って帰ってくるものとばかり思っていたのだ。

晴美は微笑んで首を振る。

「さあ。クライアントとの打ち合わせがあるみたいでしたけど。私は会社から直接戻った...

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