第103章

森原覚が私の入室に気づくと、ひらりと手を振った。

『こっち来い……』

命令口調が癪に障る。けれど私は結局、彼の前まで歩いた。

『森原覚……』

名を呼び、言葉を続けようとした、その瞬間だった。森原覚の向かいに座っていた三十歳前後の女が、露骨な敵意を私に向けてくる。

見覚えがある。空野朱音のアシスタントだ。

空野朱音は森原覚に近づき、少しでも早く婚約の返事を引き出すために、空野家に大金を出させて、森原覚が最近撮っている作品の出資者にまでなった。

投じた金が焦げつくのを恐れた空野家は、社員を一人「世話係」として現場に送り込んだ。名目は朱音の身の回りのサポート。実態は、空野家の資金の監...

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