第106章

白原さんの言葉を聞いて、私は訝しげに森原覚を見た。

彼はそこでようやく、のんびりした口調で言う。

「婆さんが昼に電話してきた。どうしても、お前を連れて帰れって」

書斎の前まで来たところで、彼はさらに付け足した。

「あとで婆さんに会ったら、感情を抑えろ。年寄りなんだ。怒らせたくない」

私は白い目を向ける。――言われなくてもわかってる。

私と森原覚の関係はとっくに壊れている。けれど、まだ離婚はしていない。

契約を結んだ以上、私は森原お婆さんの前では今まで通りに振る舞う。言うべきことは言う。言うべきでないことは、一言だって漏らさない。

森原お婆さんは書斎の柔らかなソファに腰掛けてい...

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