第109章

病室には、かすかな消毒液の匂いが漂っていた。そこへ空野朱音の、甘ったるく鼻にまとわりつくようなハイブランドの香水が混ざり合い、胸の奥がじわりと重くなる。

私は自分の立場を忘れない。森原お婆さんのベッド脇に、黙した彫像みたいに控えていた。

お婆さんの手は少し冷たい。痩せた手の甲に青筋が浮き、私は掌でそっと包み込んで、わずかな温もりを渡そうとする。モニターの心拍は安定しているのに、彼女は目を閉じたまま、目覚める気配がない。

森原覚は、空野正人夫妻に囲まれて話していた。病状の相談――という体裁。けれど実際は、念入りに段取りされた『親戚づきあい』の場にしか見えない。

「覚、この方は?」

案...

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