第110章

私の目に宿った怒りの火を見ても、空野奥様は引くどころか、面白い獲物でも見つけたみたいに口元を吊り上げた。

一歩、距離を詰める。

大ぶりのダイヤの指輪をはめた手が、私の肩に置かれた。

長く硬いネイルが布越しにじわじわ食い込み、爪先が皮膚を抉る。

ただの生理的な痛み。けれど私は歯を食いしばり、奥様を睨み返したまま、一言も漏らさなかった。

『どうしたの? 怒った?』

くす、と笑う。すべてを掌で転がしている、と言わんばかりの余裕。

真紅のネイルが肩から顎へ滑り、ぐいっと顔を持ち上げられる。視線を逸らすことすら許されない。

『宮沢詩音。あなたが今、腹を立ててるのも、不公平だと思ってるの...

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