第111章

宮沢詩音が怒りで子豹みたいに目を吊り上げたのを見て、俺は慌てて、掴んでいた手を放した。

胸の奥で煮え立つものを押し殺し、冷えた声を落とす。

「話がある。二階の寝室で待ってる」

詩音は俺を一瞥して鼻で笑い、くるりと背を向けてキッチンへ入っていった。鍋の中では鶏スープがことこと煮えていて、湯気に混じって食欲をそそる香りが漂う。

その匂いに、ふいに胸がゆるんだ。

――家、か。

俺が欲しかったのは、こういう現実の安らぎだったのかもしれない。

寝室で待って、どれくらい経っただろう。ようやく宮沢詩音が、熱いスープの椀を手に上がってきた。

「半日動きっぱなしでしょ。まず一口飲んで」

淡々...

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