第119章

はい。母の名は宮沢雅美。私は父親のいない子で、生まれたときから母の姓を名乗っている。

空野正人があんなにも淡々と母の名を呼んだ。――それだけで、彼が昔から母を知っているのは明らかだった。

『雅美、どうしてここにいる?』

母の姿を認めた瞬間、空野正人は森原覚と話す気を失ったらしい。まっすぐ母のもとへ歩み寄り、車椅子に座る母を、痛ましげな目でじっと見つめた。

母は膝にかけた小さな毛布を、落ち着かない手つきで引き寄せる。まるで何かを隠したいみたいに。

『どいて……どいてよ、空野正人。あなたの顔なんて見たくない』

『詩音、連れてって。お願い、今すぐ……!』

母はひどく取り乱し、苛立ちと...

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