第121章

『――これだけあれば、お前と母親は、残りの人生を不自由なく暮らせる』

 空野正人は、自分が差し出した金で私の心が動くと信じていたのだろう。けれど――私は宮沢詩音。札束で殴れば転ぶような女じゃない。

 森原覚との契約結婚が、金をきっかけに始まったのは事実だ。

 それでも、最初に心を動かしたのは私のほうだった。

 空野正人が提示した条件に、私はもう一度、はっきりと首を横に振る。

『空野さん。森原家は、空野家よりずっと裕福です。森原家が私に払っている額は、あなたの提示より少なくありません。……それなら私は、森原家の若奥様でいるほうがいい』

『空野家の件は、私にはどうにもできません。失礼...

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