第167章

「前に空野朱音と付き合ってたときも、ああやって彼女にぐちぐち言ってたの?」

 空野朱音――その名前を口にした瞬間、森原覚の顔色がさっと変わった。さっきまでの空気が嘘みたいに冷え、車内に細い緊張が張りつめる。

 ……言い方、間違えた。

 怒らせたかもしれないと思った私は、慌てて口をつぐむ。それから先の道中は、驚くほど静かだった。森原覚は淡々とハンドルを握ったまま、実家へ車を走らせる。

 玄関先では白原さんが出迎えてくれた。わざわざ私のほうのドアを開けてくれて、私は気をつけながら降りる。

 森原覚はまるで別人みたいに表情を固くし、冷えた顔のまま客間のほうへ歩いていった。

 機嫌の悪さ...

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