第173章

 空野朱音のその言葉に、俺は思わず動きを止めた。

 まるで、俺の弱点を掴んだとでも言いたげに。

 彼女はくすりと笑い、言い放つ。

『やっぱりね。宮沢詩音なんかより、あなたの中では空野藍のほうが大事なんだ』

 宮沢詩音と空野藍は、そもそも並べて比べられるような女じゃない。俺だって、比べたことなんて一度もない。

 朱音の言い方は露骨だった。藍を盾にして、俺の良心を縛ろうとしている。

 もしこれが昔なら、空野家に対して多少なりとも負い目を感じて、言い返せなかったかもしれない。

 だが、今は違う。

 真実を知った以上、空野家に情けをかける余地なんて、もうどこにも残っていなかった。

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