第76章

 医療スタッフが口にしていた空野家の噂話なんて、私にはまるで響かなかった。

 ただ――隣のベッドに横たわる母の顔を見ると、胸の奥がちくりと痛む。子どもとして何ひとつ成し遂げられていないくせに、母を入院さえ落ち着いてさせてあげられないなんて。

 罪悪感をごまかすみたいに、私はそっと手を伸ばし、掛け布団の端を整えようとした。

 そのとき、母の目尻から――涙が、すっと落ちたように見えた。

 脚がまた痛み出したのだと思って、私は慌てて身を乗り出す。

「お母さん、どうしたの? どこかつらい?」

 母はあたふたと目元を拭い、首を横に振って、無理に笑みを作った。

「詩音、私は大丈夫よ。どこも...

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