第5章

午前二時、病院の救急外来。消毒液と不安が入り混じった重い空気が漂っていた。須藤葵は交通事故の被害者の処置を終え、カルテを整理しているところだった。手首には、椿がくれたフレンドシップブレスレットが蛍光灯の光を反射していた。

不意に、夜の静寂を切り裂いて電話が鳴った。須藤葵が着信表示に目をやると――幸村真尾。彼女は眉をひそめた。この時間の電話に、ろくなことはない。

「幸村真尾さん?」

医療従事者としての冷静さを保ち、電話に出た。

「須藤葵、俺だ」

彼の声は、かろうじて抑えられた怒りと、それよりもさらに暗い何かに張り詰めていた。

「椿のことで、至急聞きたいことがある。彼女が姿を...

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