第6章
小さな町の午前三時は死んだように静まり返り、無人の通りに響くのは二人の足音だけだった。須藤葵は病院の救急診療録を握りしめ、幸村真尾の手は震えが止まらなかった――身元不明の被害者が椿かもしれないと彼女から告げられてから、ずっと。
「幸村真尾、本当にこれを見るつもり?」
松園寺の前で立ち止まった須藤葵の声には、憂慮の色が濃くにじんでいた。
「真実というものは、一度知ってしまったら、もう元には戻れないものよ」
幸村真尾は松園寺をじっと見つめた。そこに妻の最期の記録が残されているはずだと知りながら。
「知らなければならないんだ、葵さん。もし、あれが本当に椿だったら……」
彼の声は...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
縮小
拡大
