第004章プロモーションとボーナス
第四章――昇進とボーナス
エリック・フィリップスは次に、アシスタント・ゼネラルマネージャーのクーパーに歩み寄った。
クーパーの顔からさっと血の気が引き、青ざめた。彼は慌てて言い、声を震わせながらしどろもどろに口にした。
「フ、フィリップス社長! ぼ、僕はアレックスとは関係ありません、どうか……どうか信じてください、フィリップス社長!」
エリックは手を差し伸べ、クーパーを立ち上がらせて言った。
「クーパー、怖がる必要はない。君を困らせに来たんじゃない。むしろ昇進させに来たんだ。今日から君が、この会社のゼネラルマネージャーだ」
クーパーは言葉を失い、かすれるような声で呟いた。
「ほ、本当に……?」
驚きと喜びがない交ぜになって、表情が定まらない。
「もちろん本当だ」エリックは微笑んだ。
取締役会長としてここに就くと決めてから、エリックは金を使って社内の情報をいくつか集めさせていた。
彼が得た報告によれば、クーパーは商才に長け、人格も申し分ない人物だという。ただ一つ、彼に欠けていたのは、才能を見抜き押し上げてくれる後ろ盾だった。
不運にも、クーパーはこれまで前任のゼネラルマネージャーであるアレックスの陰に隠れ続けてきた。アレックスはクーパーの功績を横取りするのが得意で、その一方で自分の失敗は巧みに責任転嫁し、長年にわたりそのツケをクーパーに押し付けてきたのだ。
「ありがとうございます、会長! このチャンスをいただき、本当に感謝しています。必ず自分の力を証明してみせます!」
クーパーは興奮のあまり、エリックの前にひざまずきかける勢いだった。この瞬間を、彼は何年も待ち続けてきたのだ。
「礼はいい。これからしっかり働け。会社をさらに大きくすることが、私への一番の恩返しだ」エリックは言った。
「私が何者か、もう分かっただろう。成果を出せば、今後さらに上へ引き上げてやれる。支店のゼネラルマネージャー程度で終わる話じゃない――その意味も分かるな?」
「承知しました、フィリップス社長! ご安心ください。全力を尽くします。会社のためなら何でもやります」
クーパーの声には決意が満ちていた。エリックこそが自分の恩人であり、これからは会社とともに彼に忠誠を尽くすのだと、はっきり悟っていた。
「期待している」エリックはクーパーの肩を軽く叩いた。
かつては、エリックのほうがクーパーのような副総経理を見上げる立場だった。だが今は違う。状況は逆転し、クーパーはエリックの前で何度も頭を下げ、うなずくばかりだった。
やがてエリックは身を翻し、その場にいる百人あまりの社員たちに向き直った。
「歓迎の贈り物だ。来月の給料に加えて、一人ひとりに一万ドルを私から渡す」
社員たちはどよめいた。
「えっ!? 歓迎の贈り物が一万ドルだって!?」
次の瞬間、歓声が爆発する。
「ありがとうございます、フィリップス社長! フィリップス社長、万歳!」
「新しい会長、気前が良すぎるだろ! 会って早々こんな大金を配るなんて! スミス家なんかよりずっといい!」
「そうだそうだ! こんな太っ腹な会長なら、先は絶対明るい!」
……
社員たちは口々に新会長の話題で盛り上がり、倹約家で意地の悪かったアレックスより、はるかに気前がいいと早くも心を掴まれていた。
こうして金を配ることで、エリックは見事に彼らの心を掌握したのだ。
百人以上に一人一万ドルを配ったとしても、総額はせいぜい百数十万ドル程度。今のエリックにとっては、痛くもかゆくもないはした金だった。
エリックは手を振って言った。
「諸君、真面目に働いてくれさえすれば、今後はボーナスも福利厚生ももっと増やしていく。私が保証しよう」
「フィリップスさんに従え! 火の中、水の中、ためらうな!」とクーパーが真っ先に叫んだ。
社員たちも興奮気味に声を合わせ、熱を帯びたスローガンが一斉にこだました。皆のみなぎる意気込みを見て、エリックは満足そうにうなずく。
祖父は昨日、「お前はお飾りでいればいい」と言っていた。だが、エリックにはそれ以上の構想があった。会社をもっと良くしたい。さらに前へ進めたい。そして、無能な三代目の金持ちの甘やかされた跡取りなどではないと、祖父に証明してみせたかったのだ。
ずっと傍らで静かに控えていたブレイディは、その光景を余すところなく見届けていた。誇らしげに心の中でつぶやかずにはいられない。
(エリック坊ちゃんが、ここまでやれるとはな……。新任の総支配人を完全に忠誠に導くだけじゃない。社員の心まで、あっさり掴んでしまった。……ウィリアムズ様を思い出す)
ブレイディは、今目の前で起きたことをすべてショーン会長に報告しようと決めた。
……
会社の運営はすでに軌道に乗っており、各部門も一通り成熟している。エリックが細々と気を回す必要はなかった。クーパーと幹部たちがすべてを取り仕切っている。午前中を会社で過ごしたところで、エリックは今日はこれで切り上げることにした。
その前にエリックはクーパーへ命じた。社内に食い込んでいるスミス家の息のかかった人間――特別なコネを持つ「お気に入り」たちを、徹底的に一掃しろ、と。
昨日得た情報によれば、スミス家は会社の要所要所に、実務もせず金だけを吸い上げる人員を大量に差し込んでいた。役に立たないどころか、会社の血を吸って太るだけの寄生虫だ。こんな厄介者は、早急に排除しなければならない――エリックはそう確信していた。
一方そのころ、街の反対側。豪奢なスミス家の邸宅では、不穏な空気が濃く渦巻いていた。
「くそっ……くそったれ!」激昂したミスター・スミスが、カップをテーブルに叩きつけた。鈍い音が部屋に響く。
「本当にこのまま黙って見過ごすつもりか、父さん?」スミスの声には、現状を受け入れがたい苦々しさが滲んでいた。
「もちろん違う!」アレックスは険しい表情で、歯を食いしばって言い放つ。「俺、アレックスがこのまま泣き寝入りするくらいなら……今日限り人間をやめる!」
「だがな……相手はウィリアムズの孫だ。それだけで手が出しづらい」ミスター・スミスは打つ手のなさを隠せず、肩を落とした。
「正攻法で勝てないなら、手段を選ぶ必要なんかない。裏でならず者を雇って、あのガキを消せばいいんだ!」アレックスの顔が、ねじれるように歪んだ。
ミスター・スミスの目に光が宿る。
「父さん、そいつは妙案だ! こっちが関与した証拠さえ残さなければ、誰も俺たちが雇ったとは分からない。金はたんまり握らせて、しばらく海外にでも逃がしておけばいい」
「そういうことだ。使えそうな連中なら心当たりがある。今すぐ手配してくる」そう言い捨てると、アレックスは席を立ち、足早に部屋を出ていった。
「父さん! そいつらには容赦するなって言え! 確実に――一生植物人間にしてやれ!」ミスター・スミスは、去っていく背中に向かって怒鳴りつけた……。
