第007話うん!どのクラスのどの金持ちっ子!"」この突然の「男」の登場人物が誰なのか、みんなとても興味津々でした。

「そうだよ!どこのクラスの金持ち坊ちゃんだよ!?」

突如として現れた“金持ちの御曹司”がいったい誰なのか、教室中がその話題に釘づけだった。

女子生徒の何人かはそわそわと浮き立ち、教室の空気には期待がありありと漂っていた。十億――ではない、千万をさらりと寄付するなど、そんなことを平然とやってのけるには家が桁違いに裕福でなければ無理だ。そんな“遊び”をできる時点で、もう次元が違う。

カーデンでさえ思わず感嘆していた。自分の家だって裕福ではあるが、小遣いには限りがある。百万円すら簡単には用意できないのに、千万の寄付だなんて――。

(あいつの身分は、俺なんかとは比べものにならないはずだ)

第七章 男の器

女子の中には、興奮を抑えきれずにうずうずしている者もいた。その金持ち御曹司が誰なのか分かりさえすれば、きっと何が何でも近づこうとするだろう。あらゆる手段で取り入って、自分を引き上げてもらう。金の力で一気に身分が跳ね上がり、枝に止まった鳳凰のように高みに舞い上がれるのだから。

「でもさ、掲示にはクラスも名前も書いてないんだよね。そこが惜しい!」

「そうそう!寄付した人が誰か分からないって、もどかしすぎる。掲示板もグループも全部その話で、みんな“謎の金持ちの跡取り”の正体を知りたがってるのに……結局、誰も分かんないんだよ」

周囲が自分のことをあれこれ噂しているのを聞きながら、エリックは思わず口元を緩めた。自分の匿名寄付の話が、こんなに早く学校中に広まるとは思っていなかったのだ。

だが幸い、エリックはあらかじめ校長に指示していた。クラスと名前は伏せるように、と。そのおかげで余計な面倒を背負わずに済んだ。

騒ぎが収まらない中、カーデンが舌打ちして言った。

「くそっ、何考えてんだよ。匿名で寄付とか。そんな大金出すなら、見せびらかしてなんぼだろ?匿名じゃ自慢できねえじゃん。俺だったら、学校にクラスと名前をでかでかと書かせるね!」

皮肉なことに、クラスメイトたちは自分たちが知りたがっている“金持ちの坊ちゃん”が、まさに同じ教室に座っているとは夢にも思っていなかった。

カイルがくつくつ笑いながら言った。

「それにしてもすげえよな、千万をぽんと寄付だぜ。ああいう金持ちの坊ちゃんと友だちになれたら最高だろ。へへ」

エリックは心の中で小さく笑った。――もう友だちだろ。

「そういえば、カイル。前に借りてた千ドル、これ」エリックはそう言うと札束を取り出し、差し出した。

「いいって。エリック、今は持ってろよ。今すぐ必要ってわけじゃない」カイルは金を押し返しながら言った。彼はエリックの家が苦しいことを知っていた。自分の家も裕福ではないが、金に困っているのは同じだ。

カイルの父親は小さな商売をしていた。金持ちではないものの、エリックの家よりはずっとましな暮らし向きだった。

それを聞いて、エリックは胸の奥がじんとした。貧しかった頃、誰も自分に近寄ろうとしなかったのに、カイルだけは違った。しかも何度も金を貸してくれて、そのたびに助けられてきたのだ。

「デブ、ありがとう。でも本当に今は金があるんだ。心配するな」エリックは譲らず、カイルの手に無理やり金をねじ込んだ。

本当は十倍にして返すつもりだったが、カイルの性格では受け取らないと分かっている。だから、これから別の形で助けてやろうと心に決めた。

「……分かったよ。今度金が必要になったら言え」カイルはようやく押し問答をやめた。

「へえ、エリック。儲けたのか? 一度に千ドルなんて出せるようになったじゃん。週末に何か売ったのか?」ケイデンが大声で茶化した。

エリックは眉をひそめた。「ケイデン、口のきき方に気をつけろ」

「俺に口答えする気か? 死にてえのか?」ケイデンは怒って机を叩き、今にもエリックに殴りかかりそうな勢いだった。

ケイデンにとって、エリックは思うままに扱える弱い奴だ。逆らうなら、痛い目を見るだけ――そう信じている。

「ケイデン。今日、俺に指一本でも触れてみろ。必ず、苦しみ抜いて死ぬことになる」エリックは目を細め、ケイデンを真っすぐに見据えて言い放った。

ケイデンのこれまでの振る舞いで、エリックの怒りはすでに限界に近い。そこへさらに火を注いできたのだ。

以前なら、エリックはケイデンを怒らせることなどできなかった。だが今は違う。ケイデンが挑発するなら、耐えがたい代償を払うのはケイデンの方だ。

「苦しんで死ぬ? お前が? ははっ、見せてみろよ。殴り倒してやる。金もコネもない貧乏人が、どうやって俺を苦しめるってんだ?」ケイデンはそう言い返し、袖をまくり上げた。

カイルがすぐにエリックの前に立ち、愛想笑いを浮かべて言った。「ケイデン、エリックは今日はちょっと冷静じゃないんだ。変なこと言ってるだけだよ。俺が代わりに謝る。落ち着いてくれ、ケイデン」

「どけ。邪魔するならお前も殴るぞ!」ケイデンは荒々しくカイルを押しのけた。

「やめて!」澄んだ甘い声が教室に響いた。

エリックが振り向くと、そこにいたのはクラス委員長のシャロン・ブッシュだった。

シャロンは目を引くほど整った体つきで、白い肌に長い黒髪、身長は百六十五センチほど。花柄のワンピースをまとい、しなやかな色気を漂わせていた。

「オーラ。カデン、ここは教室よ!それに授業中!もし騒ぎを起こすつもりなら、絶対にカウンセラーに報告するから!」シャロンはそう言い放った。

その割り込みにエリックは面食らった。シャロンとは何の関わりもない。二人きりで話したことすら一度もないはずだ。それなのに、彼女はまるで自分をかばうように前へ出ている。

「おい、美人さん。本気でこいつを助ける気か?こいつは貧乏人の家の出だ。助ける価値なんてどこにもないだろ」カデンは嘲るように言った。

シャロンは唇を噛み、言い返した。「だからこそよ。家庭が苦しいからって、学級委員の私があなたにいじめさせるわけにはいかない!」

「そうかよ。じゃあ、いじめてやるしかねえな!」カデンは傲慢に宣言した。

そう言うや否や、カデンは素早く身を乗り出し、エリックへ拳を叩きつけようとした。

教室の空気が一瞬、凍りついたように感じられた。「エリック、気をつけろ!」カイルの叫び声が、恐怖を帯びて響き渡る。シャロンも固唾をのんで見守り、その顔には不安が刻まれていた。

クラス中の視線が一点に集まる中、エリックは身をひるがえしてカデンの拳をかわし、机の上へ手を伸ばした。握り込んだペンが狙いを定め、次の瞬間、容赦なくカデンの肩へ突き立てられる。

「うあっ!」

鋭い悲鳴が教室にこだました。ペンは肩の肉に深く食い込み、血がにじみ、やがて流れ出す。その光景に生徒たちは顔色を失った。

「えげつない……!本気でやりやがった!」

「カデンに手を出すなんて……!あいつの家のこと知らないのか?自分から厄介ごとを招いてるだろ!」

普段は気が弱く、いいようにされていたエリックが、ここまで苛烈な行動に出るとは誰も想像しなかった。カデン自身もまた、エリックが本当に自分を傷つけるとは信じられないといった様子で、唖然としている。

「カデン。自分が無敵だと思ってるのか?今日は思い知らせてやる!」エリックの声は氷のように冷たく、その言葉は背筋を凍らせた。

「やれ!こいつを殺せ!」カデンは激昂し、背後の数人に向かって喚き散らす。

エリックは怒りを燃やす目で、もう一本のペンを握りしめ、叫んだ。「俺に向かってくるやつは死ぬぞ!死ぬのが怖くないなら来い!」

カデンの取り巻きたちは喉を鳴らして唾を飲み込んだ。いつもは強がって見せる連中も、今は足がすくんでいる。所詮、彼らは学生にすぎない。先ほどの一撃が、完全に心を折っていた。

弱い者は強い者を恐れ、強い者は追い詰められた者を恐れる。

「カデン、血がかなり出てる。身体のほうが大事だろ。先に保健室に行ったほうがいいんじゃないか?」そのうちの一人が言った。

「はいっ!」

そう提案した男の声は、わずかに震えていた。手下たちは同意するようにうなずき、エリックに逆らいたくはないのだろう、ケイデンに近づくにもどこか恐る恐るだった。

肩口を汚す血が目に入り、焼けつくような痛みが襲う。ケイデンはうなずくことしかできなかった。

「エリック! よくも俺に手を出しやがったな!? いいか、お前は終わりだ! 覚悟して待ってろ!」

ケイデンは怒鳴り散らした。吐き捨てるようなその声には怒りが満ちている。脅しの言葉を空気に残したまま、ケイデンは手下に支えられ、教室から慌ただしく逃げ出していった。

ケイデンの胸は怒りで煮えたぎっていた。病院で治療を受けたら、必ずエリックに報復して鬱憤を晴らしてやる――そう固く決めていた。

「いいだろう。待っててやる」

去っていく背中を見送りながら、エリックは冷ややかに口元をつり上げた。クラスメイトたちは、称賛と憐れみの入り混じった視線を彼に向ける。

皆、授業中のケイデンの傲慢さにはうんざりしていた。だが、真正面から逆らう勇気はない。ケイデンのような相手を傷つければ、きっと重い代償が待っている――エリックに背負いきれるはずがない、と誰もが思っていた。

「エリック、ペン先でケイデンを刺したんだぞ。下手したら死んでたかもしれない。……いや、マジですげえよ。力って、こんなに気持ちいいんだな!」

カイルが興奮気味に叫んだ。

だがすぐに表情を曇らせる。

「でもケイデンみたいなやつ、こっちが手を出していい相手じゃない。あいつ、絶対に仕返ししてくる。どうするんだよ……?」

カイルの声には不安が滲んでいた。

「仕返し? 待ってるさ」

エリックはにやりと笑った。

以前なら、エリックはケイデンに正面からぶつからなかっただろう。弱いからではない。分別があったからだ。男には勇気が必要だが、それ以上に、自分が背負う責任を理解する成熟が要る。

だが今のエリックには、強大な家の後ろ盾がある。第一級の富豪の御曹司として、何も恐れず勇気を振るえる。たとえケイデンを殺してしまったとしても、問題になどなるはずがなかった。

「はあ……」

カイルは長いため息をついた。ここまで事態がこじれた以上、今さら何ができるというのか。

校長室――。

「校長先生、こちらがエリックの資料です」

秘書が差し出すと、校長はすぐに受け取り、目を通した。

「母子家庭……家計は困窮……?」

読み進めた校長は驚愕した。資料によれば、エリックは貧しい家庭の出で、数年前には奨学金の申請までしている。

それが、平然と一千万ドルを寄付する人間が、どうして貧しい家庭のはずがある?

「校長先生、この情報は偽装かもしれません。彼の手腕なら、偽の資料など簡単に作れます。目立ちたくなくて匿名で寄付し、身元も低く見せているのでしょう」

秘書がそう進言した。

校長はうなずいた。

「なるほどな……。どうも裏がある気がする。こちらは慎重に対応しろ。絶対に、彼の機嫌を損ねてはならん!」

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