チャプター 269

ロイ視点

俺は上質な革張りの椅子に深く身を沈め、ミラを見つめていた。

彼女は知らない。この部屋の隅々までが監視下にあり、俺の襟元に仕込まれた小型の装置が、交わされる言葉の一言一句をブラッドとレスターのもとへ送信し続けていることを。

「このワイン、格別ですわね」ミラの声。グラスの中で深紅の液体を揺らしながら、彼女は俺の向かいにあるクリーム色のソファに座っていた。何気ない仕草を装いつつも、その身体のラインを際立たせるようなポーズで脚を折りたたんでいる。

「君には最高のものだけを」俺は微笑んで返した。

ミラは乾杯の真似事のように俺に向けてグラスを掲げたが、その瞬間、彼女の手がかすかに震えた...

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