チャプター 27

エル視点

ブラッドはグランドピアノの前に座っていた。その長身が、暮れゆく光を背にシルエットとなって浮かび上がっている。彼の指は驚くほど優雅に鍵盤の上を滑り、物悲しいほどに美しい旋律を紡ぎ出して空間を満たしていく。こんなにも……人間らしい彼を見たのは初めてだった。普段かぶっている冷たい仮面は和らぎ、代わりに静かな集中の表情が浮かんでいる。

私は身動きもできず、そこに座っていた。この威圧的なアルファを、集中しきった音楽家へと変貌させた魔法のような時間を、壊してしまうのが怖かったからだ。そっとその場を離れたい気持ちもあったけれど、彼から目を離すことができなかった。

視界の隅で、マーサとアレック...

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